住居学科26年史

桐敷真次郎先生 日本建築学会大賞受賞

わが国の西洋建築史学に関する研究・教育および建築評論に対する多大な貢献

終身正会員桐敷真次郎君

桐敷真次郎君は 1950年、東京帝国大学第二工学部建築学科(旧制)を卒業、新制となった東京大学の大学院に進学し、 1953年、東京都立大学助手となった。その二年後、ブリティッシュ・カウンシルの給費を得て、海外留学の戦後第一世代の一人としてロンドン大学コートゥールド美術史研究所に留学した。そこでの研鑽を通じて、西洋建築史学の長きにわたる蓄積、方法論、そして最新の成果を学び、以後、東京都立大学助教授、教授、名誉教授となる経歴のなかで、同君は自らの建築史学を築き上げていったのである。
その成果は夙に 1962年、 J.M.リチャーズ『近代建築とは何か』の譯業となって現れ、われわれの近代建築理解とその評論に多くの刺戟と論議をもたらした。また、西洋建築史の通史、概説、教科書等の執筆にも多くのエネルギーを注ぎ、多大な業績を上げた。わが国建築史学の教育に果たした同君の貢献はきわめて大きい。とりわけ共著として編纂した日本建築学会編『西洋建築史図集』は、出版以来一貫して、わが国における標準的教科書の位置を保ちつづけている。
自身の個別的研究はイギリスのタウンハウスの分析、景観(ヴィスタ)を基礎とする江戸の都市計画論研究などに広がり、自らの様式解釈に基づく日本近代建築の通史的叙述としては、 1965年に『明治の建築』を生む。この著作における明治生命館評価が、後にこの建物が昭和建築として重要文化財指定第一号となる結果をもたらした。その後、同君の研究はイタリア建築史研究の成果となって現れ、『パラーディオ「建築四書」注解』に大成された。この業績が日本建築学会賞(論文)となったことはよく知られるところである。
1990年に東京都立大学を定年退官した後、東京家政学院大学教授となってから、 1993年には D.ワトキン『建築史学の興隆』を訳出し、西洋建築史学の成立史をわれわれの眼前に示した。ここには西洋建築の精神が遺憾なく伝えられている。
1997年に東京家政学院大学を退職後も、同君の研究の勢いは衰えることを知らず、 2008年にはフランス建築史界の泰斗オーギュスト・ショワジー『建築史』(上下)の大冊を翻訳刊行した。さらには 2011年、イギリス 20世紀初頭の鬼才ジェフリー・スコット『ヒューマニズムの建築・注解』を刊行した。この研究はその膨大な注解部分において、ジェフリー・スコットの評伝を通じて、建築史のみならず、この時期の英米伊にまたがる芸術・思想史界の錯綜した知的地図を描き上げる作業であった。こうした広範な知的世界を描き出すことができるのは、長年にわたって培われて来た、同君の広い視野と深い研鑽の賜物以外の何ものでもない。
長年にわたり孜孜として弛まぬ同君の知的営為は、イギリス、イタリア、フランス、アメリカ、そして日本の建築史にまたがる広がりをもち、後進をして頭を垂れさせるものがある。こうした業績は極めて顕著である。
よって、同君の功績に対して、ここに日本建築学会大賞を贈るものである。

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